第2回 NORI:道具と材料と料理人(2/2)
土台を作っていきたい
─ 大学を卒業したあとは、エディトリアルデザイナーを?
いえ、システムエンジニアとして東京の会社に就職しました。ですが案の定と言いますか、働いていくうちにだんだんと他のことがしたくなってきまして。ちょうどそのとき、やっとQuickTimeがそこそこ──とはいえ160x120で10fpsくらいなんですが──動くようになってきた頃だったんです。で、運良く映画部時代の先輩の勤める会社に映像編集のスタッフとして転職しました。
でも、新しい会社での肩書きもなぜかプログラマ。入社当初は希望通り映像編集の仕事をしていたんですが、その会社の通販事業のCD-ROMコンテンツを作ることになったときに、なぜか私が担当に選ばれたんです。
─ それが今のお仕事(オーサリングエンジニア)を始めるきっかけですか。
そうですね。担当選びは、会社からの指示なので拒否することも考えていなかったんですが「Premiereさわりたい~」って思ってました。
Lingo(オーサリングツール「Director」で使用するスクリプト言語)を書けると思ってたのかな……。会社側では私が何をできるのか把握していなかったと思うんですけどね。なんとかできるだろ、くらいのスタンスで任されたのかもしれません。
─ 何も知らない状態で。
ベースは斉藤さん(斉藤 智喜。有限会社モストミュージック代表取締役)が組んでいたので、教えてもらいながらやったんです。だから、私の師匠ですよ。
……そういえば、斉藤さんは会社にべったりといたなぁ。もう、住んでましたね。で、夜中になると石黒さん(石黒 貴則。有限会社モストミュージック所属)が斉藤さんに会いに来るんですよ(笑)
─ (笑) 光景が目に浮かぶようです。その後、トゴル・カンパニーを設立されたんでしたっけ?
いえ、しばらくフリーとしてやっていました。そのときにYOUCHAN(イラストレーター、絵本作家、グラフィックアーティスト。主な著書に『リトル・ベティー・ブルー 猫のマザーグース』など)と知り合って、彼女がグラフィック、私がオーサリングと、ユニットのような感じで仕事をしていたんですが、そのうち会社にしたほうがいいかもねって。じゃトゴル・カンパニーだ、と。
─ とんとん拍子。
おかげさまで、いまトゴルで何年目でしょうね。6期目……だと思うんですが。2000年くらいに設立したんですよ。たぶん。
─ たぶんって(笑)
正確な数字はトゴルのウェブサイトを見ていただけますか?(笑)(インタビュー当日は2006年1月だったため、6期目、2000年設立で正解でした)
─ 現在、NORIさんが軸にされているお仕事はどのようなものですか?
会社の代表としての業務と、FlashやDirectorを使ったオーサリングがメインですね。それと、最近力を入れているのは写真です。トゴルは、YOUCHANがイラストで私が写真、という柱を作ろうと思っているんですよ。
オーサリングというものは、外から見えないものなので(売りとして)弱いんですよね。乱暴に言えば、それをやるのは誰でもいいわけです。世代交代ができますから、代わりもいますし。
─ これからの土台になるものを作ろう、と。
はい、YOUCHANはイラストの土台ができてきましたから、次は私が写真を土台にしたいな、と。学生時代に触れていた映像に関しても、写真の延長に近いものがありますので、将来は取り組みたいなと思っています。
─ そういえば、最近は多摩美術大学の非常勤講師もされているとか。
年間を通してやるわけではなくて、前期分の半年だけなんですけどね。4月から始まって、8月まで。前期って短いんです。二十数回で終わるんですよね、いつも。
─ 具体的にはどういうことを教えられているんですか?
3年生にFlashの使い方を教えています。WEB構成とHTML+CSSの技術的な部分を森川さん(森川 眞行。アンカーテクノロジー株式会社 プロデューサー)が教えて、それに多摩美の先生を加えた3人体制で、最終的にウェブサイトを作りましょう、という授業です。
─ 講義のような形で進める?
いろいろです。学生も人によってレベルが様々ですから、個別に指導したり、講義をしたり……。学生が勉強で作るものと、プロが仕事で作るものはクオリティが違いますから、どこをどうすればプロに近づけるのか、という話をしていますね。
─ NORIさんと森川さんに教えてもらえるなんて豪華!
多摩美の授業は、むちゃくちゃ贅沢なんですよ。私が授業を受けたいよっていう先生ばっかりですから。
ジブリの高畑さん(高畑 勲。映画監督。『火垂るの墓』、『ホーホケキョ となりの山田くん』などの監督・脚本を務める)とか、CGの原田さん(原田 大三郎。映像作家。映画『スワロウテイル』、OPERA『LIFE』のCG制作などを務める)とか。
─ 美術系の大学も、変わってきていますね。
ええ、彫刻とか絵画だけではなくて、特色を出すためにウェブの授業を設けたりするんですよね。コンピュータもいっぱいありますし。
学生のスタイルも、昔とはずいぶん変わっていますよ。メールはみんな携帯電話でやっていますし、データの持ち運びにiPodを使っていたりしますからね。
─ なるほど……。
学生と講師の連絡用にメーリングリストを設けているんですが、携帯電話を目覚まし時計代わりに使っていて着信をバイブにしていない人も多いので、夜中にメールを出すときは「夜遅くにごめんね」って書くんですよ。着信音が鳴って、起こしちゃいますから。
私たちの常識とは違って、面白いでしょう?(笑)
いいコンテンツを作るには
─ 今日は『地球を守る』Vol.8 森林減少の打ち合わせも兼ねてお越しいただいていますが……。
はい、制作インするための打ち合わせですよね。毎年、いつもこの時期(1月中旬)に打ち合わせがありますね。
─ NORIさんとの出会いも、『地球を守る』の立ち上げがきっかけでした。
SIHOさんに呼ばれたことしか覚えてないですけど……。
─ 斉藤さんに紹介していただいて、メールをお送りしたんですよ。当時(1998年)はFlashでオーサリングする人がほとんどいませんでしたから、NORIさんは神のような存在でした。
全然覚えてないですね(笑) 『地球を守る』Vol.5 大気環境のゲーム制作が大変だったことは覚えてますけど。
─ あれは大変でしたね!
あのときは「今年で最後の更新になるから」って言われてすごく気合いを入れたのに、そのあと3年も続いてるから、もう信じないですよ(笑)
─ (笑) おかげさまで力作になりました。コンテンツの話が出たところで最後にお聞きしたいんですが、いいコンテンツを作るには何が必要だと思いますか?
よく思うのは、どんなに人を揃えても、ディレクションやプロデュースが下手だと、いいコンテンツというのはできないんですよ。
いろんなコンテンツに関わってみると、トゴルとして関わりながらも残念な結果になったこともあります。いい道具やすばらしい材料(人材)を揃えても、肝心の料理をする人(プロデューサーやディレクター)が上手じゃないと、いいものができません。
『地球を守る』がこれだけ長く続いているのは、ビバマンボさんをリーダーとしたチームがうまく動けたからだと思うんです。つまり、コンテンツ作りはチームワークなんですよね。
聞き手:SIHO、文:沖 良矢、写真:中西 栄二